「キンさんの生まれ育ったところで試合をするわけですからね。あんな、とんでもない人間が出てくる土地には、いったいどんな人たちが住んでいるのか。前から来てみたかったんです」
「言い訳しない」―― リーチが発したその言葉が意味するものとは
リーチマイケルは笑顔を浮かべてそう言った。
10月9日、福島県いわき市のいわきグリーンフィールドで行われたトップリーグ、東芝ブレイブルーパス対ホンダヒートの試合の後だった。
キンさんとは、東芝のチームメイトであり、38歳の今なお日本代表最多キャップを更新し続ける英雄、大野均のことだ。
「キンさんの本(『ラグビーに生きる』ベースボール・マガジン社刊)も読んでいたから、キンさんをラグビーに引っ張ってきた恩師の先生に会えたのも嬉しかった。本当に、人との出会いで人生は変わっていくんですね」
福島県内でトップリーグの試合が行われたのは、トップリーグ初年度の2003年11月も同じグリーンフィールドで行われたサントリーvsセコム以来13年ぶり。2011年の東日本大震災後はもちろん初めてだ。
「地震もあったし、原発のことでいろいろな問題もあるけれど、それでもみんな、元気にここで暮らしている。その姿を見て、やっぱり環境に言い訳を求めてちゃいけないと思いました」
「言い訳しない」
リーチがその言葉を使ったことには、自分自身と向き合ってきた時間の重さがうかがえた。この日の1週間前、日本ラグビー協会から、ジェイミー・ジョセフ新ヘッドコーチのもとで発進する日本代表候補メンバーが発表された。37人のリストに、1年前のワールドカップでは日本代表を主将として率いていたリーチの名がなかった。会見は行われず、リーチのコメントも発表されなかった。